あなたを想い続けて私は猫になった2章

2章
闇の迷路で私は彷徨う

「黒猫」

キキーっ!
わずかに横滑りする車

心、空転す。

ドスン!
車も止まる。

轢いてしまった?!

慌てて車から降りる
黒猫がいない。
辺りを見回したが
黒猫はいない。

(たしかに当たった感触が…)

美鈴は首を傾げながら車に戻ると
一瞬の目眩がした。
眩しさとともに右足に痛みを覚える
光が収まり視力が戻ると

視界にとてつもない違和感を感じた

えっ…
ここは何処?

再度右足に痛みが走る
そこには血の滲んだ
ハンカチが巻かれていた。

いつの間に? 誰が?

途方に暮れる
まもなく自宅のはず。
しかし目の前には全く知らない
景色が広がっていた。

闇の迷宮が築かれていく

瞳に映るのは湖だろうか…
美鈴はゆっくり近づいた。

(和磨のことばかり考えてて
 混乱してしまったのかな。
 道を間違えたのかなぁ
 ボーっとしてるものね。
 頭を冷やしてから帰ろう)

月の光が湖に射し込み
それが反射し美鈴を包み込む。
眩しい…
想い出が照らされる。

悲しみの涙が星の屑になるまで
ここに居たいと思った。

空を見上げたまま
どのくらい経っただろう
少し体が冷えてきた。
美鈴は肩をすくめて前を見る

あれ、あの黒猫は?もしかして…

黒猫がこちらに歩いてくる。

「大丈夫?あなただよね」

右足から出血しているのが見えた。

手を差し伸べて抱き上げようとした
その時
黒猫が美鈴の体を通り抜けた!

「えっ?」

忍び寄る未来

振り返ると黒猫がこちらを
ジーっと見ていた。
美鈴は黒猫に近づいた。
黒猫の方も美鈴に近づいた。
怯える様子もなく美鈴の膝に
擦り寄ってきた。
右後足から血が滲んでる…

「ケガをさせてしまった…
 ごめんなさい」

バッグからハンカチを取り出す

あっこのハンカチの柄は…

美鈴が自分の右足を見ると
乾いた傷がある。
巻かれていたハンカチは消えていた
このあとのことを考える余裕もない
黒猫の傷口にハンカチを巻いた。

「しばらく外しちゃダメよ。
 って言ってもわからないか」

黒猫は美鈴を見上げた。
そして理解したように頭を下げた。

「うなずいたの?賢いのね」

黒猫は美鈴にピタリと寄り添った。
暖かい…
どこか懐かしい。

湖を眺めながら美鈴は黒猫に
和磨との出逢いから
今までの経緯を話した。

「あなたに話してもわからないわね
 でも…本当に前からあなたと
 一緒にいたような。和磨みたい」

美鈴が話している間
黒猫は静かに美鈴を見ていた。
話しを理解しているのか
黒猫の目にも光るものが…

美鈴は涙を拭って顔をあげた。

あれ、いない。

辺りを見回したが黒猫の姿がない。

帰ったのかな?
私も帰らなくちゃ。

立ち上がると軽い目眩がした
と、同時に湖も消えて
馴染みのある風景に戻った。

幻覚?

車まで戻って来た時
ものすごい目眩がした。
体が大きく揺れて

美鈴は車道に出てしまった。
その時
前から強烈な光が迫ってきた。

キキキー!!

ドスン!

走行してきた車に当たり
その場に倒れた。

「大丈夫ですか⁈」

美鈴「う…足が」

顔を上げた途端、美鈴は驚いた。

目の前にいる人は

私⁉

蒼白な面持ちで
私を見ている女性は私?

そしてこの光景は
何処かで見たような…

そうだ…数時間前に見た光景だ!

黒猫と接触したあの光景に似ている

目の前の私?は
私の右足を止血するのに

ハンカチで縛った。

似ているどころではない
あの時と全く同じだ!

あまりの衝撃に胸が苦しくなり
意識が薄れてきた。

私が私に何かを叫んでいる

「闇」

美鈴は真っ暗な場所にいた。
息苦しさに胸を押さえうずくまる

ここは?
湖の底っ?
どうして?

自問自答を繰り返しながら

いや、そんな余裕などない
一刻も早くここから脱出しなければ

必死に泳いだ。
呼吸ができなくなり沈みかける
繰り返す。

早く湖から出ないと

再び呼吸ができなくなりかけた時
月明かりだろうか
明かりは歪んだり静止したりして
次第に大きくなってきた。

助かる。

と、思った瞬間
巨大な影が覆い被さってきた。
その影は美鈴を睨んでいる

きゃーー!!

自分の悲鳴に驚き、目を開く
視線の先には天井が見えた。
顔を右に向けた
見覚えのある写真が飾られている。

私の部屋だ…

夢だったんだ。
何とも生々しい

でもいつ帰ってきたんだろう。
私は車に跳ねられて…

足の傷は?

…ない? いや、ある。

シミのようになった古傷
いつどこで出来たものだろう。

両親にも聞いた事があるが
覚えがないと言っていた。

私は…徐々に壊れてきている。

時計を見ると午前2時
まぁ…どちらでもいい。

とにかく今は眠りたい

「手紙」

これは何?!

目が覚めるとパジャマに
黒い毛が付着している。

髪の毛じゃない
猫の毛?
うちには猫はいない。

近所の猫が侵入した?
そんなはずはないな。

それよりも昨日の記憶がない。

彷徨い始める真実

雨が強くなってきた。
台風が近づいているのね。

風が唸りをあげている
渦巻く鼓動

この先、私は心と頭が
病んでしまうのだろうか。
今の私はいなくなるのだろうか…

和磨…あなたに会いたい

まともなうちにあなたに会いたい

ふと気がつくと
右手にペンを持っていた。

何かを書こうとしていたのか

「あ」

思い出すように声をあげる。

和磨に手紙を書いておこう

私が私でいるうちに。

【和磨、あなたへ私の想いを
 綴っておきます     】

便箋何枚目かを書き始めたころ。
また意識が薄れてきた。

ダメだ!

頭を振った。

今夜中に書き上げなければ。
私でいるうちに書き上げなければ…

そう呟きながら
美鈴は和磨への想いを書きあげた。

【和磨へ、お元気ですか。
 あなたのことだから
 頑張っているんだろうな。
 あなたと会えなくなり
 毎日泣き崩れる私がいます。

 連絡が途絶えてまもなく
 1年になろうとしています。
 元気でいてくれたら
 それが1番だから…
 そう思いながら私は頑張りました
 でも、今はとても不安。
 それを手紙に書き記します。
 私が私であるうちに伝えたいから

 和磨
 あなたに会えて本当に幸せでした
 心からあなたを愛しています。

 自信もついた。
 寂しがりな私をしっかり
 抱きしめてくれた。

 だから今も幸せです。

 これからどんなことが起きようと
 美鈴は和磨を愛しています。
 この先もずっと…

           美鈴  】

夢に疲れ夜を還す

新しい朝
美鈴はペンを置いた。

和磨…

「時間のずれ」

美鈴は手紙を読み返した。
一番大切なことを書き忘れていた。

急いで書かなくちゃ!

【追伸 和磨へ
 近いうちに思いもよらない
 信じられないことが
 起こる予感がします。

 この手紙はあなたに見て
 もらえないかもしれない。
 でも、もし読んでもらえたら
 私を探して欲しいです。
 私は間もなく…      】

不覚にも眠ってしまった。

あれ?
書きかけの便箋は?

今まで書いていた手紙がない。
日記帳に、はさんで置いたはず。
あたりを探したが見つからない。

時計を見たら朝8時を回っている。

大変だ!今日は最後の出社日
遅れるわけにはいかない。
月日が流れるのは早いな。
着替えよし。メイクよし。

バッグを手にした時
カレンダーが目の端に映った。

彷徨い続ける真実

ん?
今日は7月10日よね

えっ?
6月26日?!

そういえば黒猫と出逢った時も
こんな感じだった。

勘違い?それとも夢?
私は時空を彷徨っているの?

ま、まさか

「ハハハハハ…」

美鈴は、力なく笑った。

7月10日だったら
完全に遅刻だったけど、
今日が6月26日ならば退職前の
有給消化で休暇中だわ

ホッとしたのか
激しい睡魔に襲われて
ソファに横たわり眠りに落ちた。

「美鈴、美鈴!」

聴き慣れたSymphony

誰?
和磨?

頭を上げるとぼんやり人影が見える
何度も瞬きをして、
その人影を直視した。

和磨っ!

満面の笑みで美鈴を見ていた
美鈴は彼に向かって走った。
2人は両手を広げて強く抱きしめた

「会いたかった」

和磨の胸に顔を埋めて泣いた。

今は聴きたくなかったConcerto

和磨の携帯が鳴った。
びっくりして顔を見上げると
とても寂しげな顔をして
美鈴を見た。

そして、ゆらゆら
水が揺らめくように
和磨の顔が揺れてすーっと消えた。

「和磨!」

終わりと始まりのRhapsody

けたたましい音の方に
手を伸ばすと、
美鈴の携帯だった。

また…夢か…

手元に寄せた携帯画面の日付けは
7月10日と表示されていた。

「足跡」

「美鈴、本当に辞めちゃうんだ」

スタッフの栄子が美鈴を
覗き込むようにして話しかけてきた

栄子「でも良かった。
例の彼と結婚するんでしょう?」

美鈴「え、あ…うん」

曖昧な返事をした。

…さっきも聞いたよね

栄子「日取りが決まったら
1番に教えてね」

うっすら涙を浮かべて、
栄子は美鈴に抱きついた。
美鈴は身動きができない。
栄子が抱きついたからではない。

このシーンは?!

記憶が硬直を呼ぶ

今朝のミーティングが終わり
栄子と片付けている時のことだ。

また時間が戻ってる。

交差するRefrain

再び迎える午後3時。
スタッフの皆んなから
花束をもらい寿退社かのように
見送られた。

会社を後にしてから
美鈴はいつもの雑貨屋を通る。
ここには外から美鈴の好きな
猫の置物が並んで見える
帰り道の憩いの場所。
の、はずだった。

雑貨屋が見当たらない。

不思議な経験に慣れてきた美鈴は
悲しく笑うとそのまま駅へ歩いた。

美鈴は気づかなかった。
通り過ぎたビルの合間の空き地に
古めいた猫の置物が
転がっていたのを…

「変貌」

最近老けたな…

鏡に映る自分の顔を見ながら
深いため息をついた。
7月半ば。猛暑が続いている。

退職してから美鈴は
時空を頻繁に
行き来
するようになっていた。

自分ではどうする事もできず、
ただ流されているしかなかった。

時間が選べるのなら
和磨との幸せな時間に戻りたい。

何故その刻には戻れないのだろう?

もしかしたら、和磨は
本当は存在しなかったのだろうか。
妄想が作り上げたものなのか

螺旋階段から転がる心
行き着く場所はいつも同じ

美鈴は気持ちを切り替える為に
実家を出て
1人暮らしを始めていた。
衰弱した美鈴を心配した親戚達が
母を介護付き施設への
入所を強く推してくれたからだ。

もうすぐ自分はいなくなるかも…

母親への心配が入所を決意させた。

もっと早くこうしていたのなら…

後悔の涙

ゆっくり朝食を終えて
コーヒーを飲んでいた。
カップの中の揺らめく
水面を見ていると
また目眩と睡魔が襲ってきた。

今日は何もする気がしない。
少し横になろう。

目が覚めると
部屋は真っ暗だった

1日中眠ってしまったのか…

窓の外を見上げた
星の光も月の明かりもない。
部屋の電気をつけようと
起き上がり手を伸ばそうとした

ん?

何か違和感があった。

光より眩しい暗闇

「え!? な、何?!」

ベッドの脇にある鏡を恐る恐る見た
そこに映し出されたのは…

わ、わたし?

2章 完

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