あなたを想い続けて私は猫になった3章

3章
時空の入り口の出現

黒い毛で覆われた猫が
鏡に写っている。

「猫?!」

後ろを振り返る。
右を見た。
左を見た。
天井を見た。
誰もいない。

いるのは私だけ…

じゃあ、
鏡に写っているのは私なの!?

美鈴は目を閉じた。
祈るように手を合わせた。

これは幻想だ…
夢だ…夢だ…夢だ…
呟き続けた…

呪文を唱えるかのように
何かにすがりつく。
静かに目を開ける

怖い…

鏡には
青ざめた美鈴が写っていた。
黒猫はいない。

織りなす不安と異なる現実

ふぅ…また幻想かぁ

恐怖感を残したままホッとする。

びっしょりと汗をかいた。
シャワーでも浴びようかな
美鈴は浴室へ行く。

浴槽には
新しいお湯が張られていた。
湯気が静かに立ち昇る。

いつ入れた?

また時間のズレかな。

せっかくだから
ゆっくりお湯に浸かろうか。

お湯に入ると何故か
和磨を思い出して泣けてくる。
そういう理由で、ここ最近は
シャワーだけにしておいた。

…のぼせた

湯舟から出ようとした時
ゆらゆらと湯が揺れて
猫の顔が見えた。
でもそれは一瞬のことで
美鈴は特に
気にもとめずに浴室を出た。

過去への眠りにつく

朝、目が覚めると
すぐに時計とカレンダーを見た。
カレンダーの日付が
また逆戻りしていることを知る。

サロンの新店舗を任されて
激務の日に戻っている。
深いため息。

さて、頑張りますか…

巻き戻される未来

美鈴は店長を任されて
慣れない業務を必死にこなして
仕事が終わると寄り道もせず
帰宅するだけの毎日だ。

和磨と連絡が取れない寂しさと
不安を仕事で打ち消していたが
店舗も軌道に乗り
気持ちに余裕が出てくると
また思い出してしまう。

連絡が取れなくなって
どのくらい経つのだろう。
ブツブツ呟きながら
駅に向かって歩いていた。

ん?

誰かに呼び止められた気がして
立ち止まる。

声が聞こえた方を見た。
そこには木造建築の
小さな店があった。

時空の入り口

こんなお店あったかしら?

美鈴は首を傾けた。

忙しさで周りを見渡す
余裕もなかったし
今まで気がつかなかった。

店に入ってみた。
店内はランプのような照明で
少し薄暗く感じる。

雑貨屋かな?
古めかしい物もある
骨董屋かな?

店内には年代物のような
テーブルや椅子、ランプ、
陶器や木彫りの置き物などが
ひしめき合うように置かれている。
一つ一つ眺めていると
後ろで気配がした。

店員さんかなっ?

すぐに振り返ったが誰もいない。

まだ視線を感じる…
視線の先を見た。
古めかしい木彫りの
黒猫の置き物があった。
その置き物と目が合ったような
感じがしてゾクッとした。

お店の人はどこにいるんだろう?

それにしても、店内の
この静けさはどういうことだろう?
ここは駅の近くだから
人通りも多いし車の往来も多い。
ドアが閉まっているからだろうけど
気味が悪いほど静か過ぎる。

外の音を遮断するような
建物なのかな?

ひんやりとした空気。
なんとも不思議な感覚。

「いらっしゃいませ」

美鈴「きゃー!」

突然の声に思わず叫んでしまった。
美鈴は失礼なことをしたと
深く頭を下げた。

「何をお探しでしょうか?」

店主らしき初老の男性が
表情を変えず
ささやくように声をかけてきた。

美鈴
「あ、友達に何か贈ろうかな。と」
(何か買わなきゃいけない

 みたいな雰囲気よね)

店主らしき初老の男性が
ふっ。と笑ったように見えた。

美鈴「少し見せてもらいますね」

初老の男性はゆっくり頷いた。

美鈴は置き物を手に取りながら

「このお店は
 いつオープンされたのですか?」

「この猫の置き物は本物みたいに
 よく出来てますね」

ん?

返事がない。

隣をチラッと見た。

いない!

なんか変な店。で、出ようかな。

猫の置き物を棚に戻そうとしたとき
眼が一瞬鋭く光った。
ビクッとして置き物を
落としてしまいそうになった。

危ない!壊したら大変だわ。

静かに置き物を棚に戻した。

「すみません!また来ます」

美鈴は逃げるように店を出た。

その後ろ姿をジーッと
見つめているものがいた。

店を出ると馴染みの通り。
行き交う人。
車を見てホッと安心した面持ちで
美鈴は小走りに駅に向かった。

出口の見えないドアを開く

3章 完

不定期連載
次回 4章 過去からの使者
でお逢いしましょう
お楽しみに!

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