あなたを想い続けて私は猫になった4章

4章
過去からの使者

今日も激務に追われて疲れたなぁ…
背中を丸めてトボトボと駅へ向かう
ショーウィンドーに映る自分の姿が
生気のない幽霊のようで驚く。

私、どうなるんだろう

「美鈴さん…」

誰かに呼ばれた気がして立ち止まる
声の聞こえた方を向くと

美鈴「こ、ここは…」

昨日のお店の扉の前に立っていた。

気味が悪くて逃げ出したのに…

何故か惹かれるように店に入る

「掴めない真実」

「いらっしゃいませ」

優しく明るい声が美鈴を迎えた。
少しホッとした。
店の雰囲気が
昨日と全然違うことに気付く
店内が暖かい。
外の音も微かに聞こえる。

迎えてくれたのは若い男性だ。
昨日の店員さんのことが
気になり聞いてみる

美鈴「昨日お店にいた方は
今日はお休みですか?」

初老の男性がいないか
チラッと店の奥に目をやった。

店員「…はい?」

店員は不思議そうな顔を浮かべ
首を傾けた。

店員「こちらの店は5日間
お休みさせて頂いていました
本日やっと営業再開しました。
実は…父が亡くなりまして」

店員は寂しそうに俯いた。

美鈴「そうなんですか…」

静かに目を閉じ深々と頭を下げた。

えっ?!

目を見開き頭を下げたまま固まる。

5日間休んでたって
じゃあ、昨日のことは?
また時間が戻っていたということ?

いや、カレンダーも時計も
昨日から今日までは1度も
変化がなかった…はず
今回ばかりは普通に時が進んでる

美鈴は昨日の事を鮮明に思い出して
頭を上げ店員を見つめる
店員は怪訝な顔して美鈴を見つめる

美鈴「あの〜お父様って
白いお髭で赤色のループタイを…」

店員「そうです!父です」

しばらく時が止まった。

「理解者」

美鈴は信じてもらえないだろうけど
昨日のことを話してみた。

男性店員は目を瞑って聞いていた。
美鈴が話し終わると静かに口を開く

店員「きっとそれは…
間違いなく父ですね。
この店は母と2人で始めた
大切な思い出の詰まった店で
この店を愛していました。
そんな強い意思が働いて
父の魂がお客様の前に
現れたのかもしれません」

美鈴「私のこんな話を
信じてくれるのですか?」

店員「はい…と言っても
何となくですが。
父は霊感というのでしょうか
不思議な体験を
いくつもしていました。
そして僕も幼い頃から
それらを聞いていましたので、
程なくして何か目に見えない
別の世界があるのではないか
と感じるようになりました」

美鈴「そうなんですね…
私の母も時折亡くなった人と
対面しているって話すのです」

店員「おおーっ!」

店員は興味深げな顔をした。

店員「父もよく亡くなった人が
現れて話をしてたようです。
子供の頃は何を言ってるんだか?
そもそも霊なんてあり得ないし。
って思っていました。ただ、
これから話すことを聞いた時は
そういう世界ってあるのかも
しれないと思うようになりました。

父が昔、サラリーマンだった頃の
会社の同僚が退職後に体を壊して
神奈川県の実家に戻ってきたとの
連絡があり、10年ぶりに父は
その同僚の実家に会いに行きました
久しぶりの再会で盛り上がり
お酒も入っていたので帰るのは
1泊してからということになり
食事をして風呂に入って
その晩は遅くまで昔話に
花を咲かせたようです。

深夜、寝苦しさで目が覚めると
グイッと誰かに引き起こされ
目の前にはキツイ表情の
中年の女性が立っていたそうです。

女性「ここはお前が
来るところじゃない!帰れ!」

乱暴な口調の女性に父は

父「真夜中で帰れない。
朝になったら帰るから」

と言うと手を放してくれ
スーッと消えました。

この時、
父は恐怖を感じなかった
と言ってました。
翌朝、
元同僚にその女性の容姿と
状況を話したところ
数年前に亡くなった
奥様だったようです。
何故、ここに来るな。
って言ったのかは分からないまま
帰路についたそうです。
その後、同僚の実家には
僕も父と一緒に遊びに
行ったそうなんですが
全く覚えていないんですよね。

それから連絡が取れなくなって
しまいましたが、
一昨年その方も亡くなられたと
いうことを知らされたんです。

身内は息子さん1人しかいなくて
その息子さんも亡くなられた…

息子さん?誰から聞いたんだろう
父からも聞いたことないのに…」

店員は美鈴が不安気な顔を
しているのに気づいた。

店員「つまらない話をして
しまいましたね。よかったら
コーヒーでも淹れましょう」

店員は美鈴に満面の笑みを向けた。

美鈴はなんだか嬉しかった。
初対面ではあるが、
美鈴はこの時

この人は私に降りかかる
さまざまな現象を理解して
もらえるかもしれない。

期待のような願いのような
希望の感情が芽生えた。

「アルバム」

美鈴は久しぶりに
3日間の休みが取れた

どれくらい振りだろう母に会いたい

母が施設に入ってから間もなく
父は家を出て行った。
籍も抜いたようだ。

わがままな父親…
独りでどうしているのだろうか

久しぶりに母の顔を見た。
相変わらず

ふくよかで血色も良さそうだ。
元気そうな姿を見るのは嬉しい

だけど…
年老いちゃったな。

母と何気ない会話をしながら
懐かしい昔を思い返していた。

母と会えるのは
これが最後かもしれない。

ふと、そう思った。

出迎える寂しがり屋達

美鈴が帰る時
玄関まで介護士さんに車椅子を
押してもらって見送りに出てくれた
母の顔は笑っていたが
目頭が濡れているのが分かる。
美鈴も涙腺が危なかった。

もう…泣きたくない

まだ5月だというのに
真夏のような暑さだ。
日差しが眩しい。

最近季節感ないよなぁ

駅に着くと母が居る方向に
向かって一礼した。
待つ間もなく電車がきた。

14時38分

電車は比較的空いていて
座ることが出来た。
電車に揺られながら
ウトウト夢を見ていた。

美鈴は猫になって空を飛んでいる
向かう先は愛おしい和磨の元
和磨の後ろ姿が見えた

和磨っ!

呼ばれて振り返ったのは

えっ?…違う

誰?

夢から現実へ

ちょうど駅に着いたところだ。

いいところで目が覚めてよかった。
しかし…あの人は誰だったのだろう

久しぶりに遠出して疲れた美鈴。
地元の最寄り駅に着く頃には
夕方になっていたが
今日は天気が良いせいかまだ明るい

このまま家に帰る気分じゃないな
駅前のカフェに入ろう。

通勤帰りの人たちで店は混んでいる

席がなければ他の店を探そうかな…

店の一番奥の席の客が
ちょうど席を立った。

ラッキー!
角の席は何故か嬉しい。

アイスカフェラテを注文する。

携帯を見たら友達からのメールの
通知が入っていたので
喉を潤しながら返信をする。

そして帰りの電車の中で
揺られながら見た夢を思い出す。

あの振り向いた男性
どこかで出会ったような。

…思い出せない。

「この席よろしいですか?」

どこかで聞いた声

美鈴「あ、はい!」

突然声をかけられて
美鈴は慌てて携帯をバッグに入れる
そして顔を上げた。

美鈴「あっ」

あの骨董屋さんの男性が立っている
いつの間にか隣の席が空いていた。

美鈴「ど、どうぞ」

男性「先日はありがとうございます
まさかこのようなところで
お会いするとは」

思いがけずの再会に美鈴も驚いた

美鈴「自宅から近いので、
このカフェにはよく来るんです」

美鈴は話しながら
頬が赤くなるのを感じた。

男性「そうなんですね。今、
僕は後輩の見舞いの帰りでした。
駅前に感じの良いカフェがあるな〜
って寄ってみたら。
いやー本当奇遇だな〜ははは」

少年のような屈託のない笑い声に
美鈴は心地良いものを感じた。

男性「アイスカフェラテですか?
僕もそれにしようかな」

美鈴は久しぶりに笑った気がする。
少し気持ちが軽くなった

ちょっとした仕草が和磨と似ていて
時折、和磨と話しをしているような
錯覚にとらわれる。

飲み物に手を伸ばし
彼が下を向いた瞬間に
美鈴はジーッと彼を見た。
そして、思い出した

夢の中の男性は彼だ!

まだ会ったばかりだというのに
夢に出てくるの?

1時間ほどお喋りをして
店の前で別れた。

夢の話はしなかった。

1LDKの棲家に帰るなり
ベッドに倒れ込んだ。

「楽しかったけど疲れたなぁ」

明日は大掃除だな。

乱雑している部屋を見ながら
ため息ひとつ苦笑する。

静かな雑音

着信音が鳴ったような
気がして携帯を手に取る。

ん?…気のせいか

そのまま携帯をボーッと眺めていた

そうだ、携帯に保存してある
写真も整理しなくちゃ。

なかなか削除する暇もなかったなぁ

ふと想い立ち、起き上がって
眠気覚ましのコーヒーを淹れた。

最近コーヒーばかり飲みすぎかな
胃に悪いよね。

ひとつひとつ写真を見ていった。

和磨の写真…
あまり撮ってなかったな。

そして2人で撮った写真が
1枚もないことに気づく。

わたしは愛されてなかったのかも。
いや…そんなことないよね
あの日までは。

和磨が美鈴に向かって
ピースしている写真を見ながら
和磨との出会いからのことを
思い起こす。
そして、また涙を流す。

もう泣きたくないのに…

1枚の写真に目と指が止まる。

和磨がわたしを撮った写真。
今まで気にも止めなかった。
!?っ
わたしの後方に人が映り込んでいる

拡大して更に身震いが大きくなる

(これは… )

不可思議を可視する

4章 完

5章を読む

3章を読む

トップページに戻る